ルーブル美術館所蔵「ミロのヴィーナス」が造られたギリシア美術の魅力を簡単解説

こんにちは、画家の落合真由美です。

誰もが一度は行ってみたい
世界最大級の美術館といえば
パリのルーヴル美術館です。

今回はそのルーヴル美術館に
展示されている作品の中でも
必見の彫刻作品
「ミロのヴィーナス」
についてのお話です。
ミロのヴィーナスといえば
サモトラケのニケ、
モナリザと共に
「ルーヴルの三大美女」うちのひとつ
とされていています。

今回はそのミロのヴィーナスが
なぜ有名になったのか、
いまさら人に聞けない名作の秘密や見所
について解説していきます。

ミロのヴィーナスはなぜ貴重なの?

1820年4月8日
地中海の東、
エーゲ海南西部のギリシア領の島
ミロス島(フランス語ではミロ島)
農夫が偶然畑から大理石の女性像を
見つけました。

それは紀元前100年頃のギリシアで
造られたもの
頭部や顔に損傷がない状態での発見でした。

それまで数多く出土されてきた
ヴィーナス像は
ギリシアを征服したローマが
1世紀頃に模造したものばかりだったため
このギリシア製のヴィーナス像は
貴重な存在となりました。

このヴィーナス像は出土された地名から
「ミロのヴィーナス」と名付けられ、
発掘された翌年からルーブル美術館にて
一般公開がはじまりました。

歴史ある彫像作品の中で
外れやすい頭部が奇跡的に残っていた
このミロのヴィーナスは
今も世界中の人々の心をとらえています。

 

ミロのヴィーナスはなぜ造られたの?

古代オリエント(現在の西アジア)の
地母神信仰がキプロス島を経て
ギリシアに伝わったことが
ミロス島のヴィーナス信仰の起源
とされています。

神話の中でミロス島は
キプロス島の青年が
ヴィーナスの命で建てた王国
とされています。

こうした経緯からミロス島は
ヴィーナスの島となり
ヴィーナス像が造られるようになりました。

 

ギリシア美術・ヘレニズム期の代表作

ギリシア美術は紀元前700年頃に生まれ
美術の古典的な様式と言えば
ギリシア美術のことを指すと言われており
美術の基盤となっています。

 

ギリシア美術は

アルカイック期
紀元前700年頃

クラシック期
紀元前480年頃

ヘレニズム期
紀元前340年頃

の3つの時代に分けられています。

 

アルカイックとは
「若々しさや原始性のある美術様式」
を意味します。

クラシック期はギリシア美術の黄金期で
クラシックは「古典」を意味します。

ヘレニズムとは「ギリシア風の文化」
を意味します。

 

ギリシア美術のヘレニズム期
理想化された美から離れ
リアルな人間の姿を再現しようとした時代
です。

ミロのヴィーナスはこのヘレニズム期に
造られました。
ヘレニズム期の彫像は
身体や着衣の曲線が豊かで
360度どこから見ても美しいのが特徴です。

腰を捻ったポージングでできたS字ライン、
滑らかな髪の表現が
ヘレニズム期の特徴にあたります。

また無表情な顔つき、
端正な横顔の輪郭線や片足重心のポーズは
理想的な身体美を追求したクラシック期の
流れも汲んだものになっています。

 

ミロのヴィーナスの黄金比

人間が「最も安定し美しい」と感じる比率
黄金比と呼ばれ、
このミロのヴィーナスのプロポーションも
黄金比によって造られています。

たとえば

ヘソから爪先まで:頭の天辺から爪先まで

顔の横:縦

これらの比率は
1:1.618(約5:8)である
黄金比になっています。

黄金比である1:1.618の比率は
自然界や生命の成長にも見られます。

また、これまで美の象徴として
歴史的建造物や芸術作品に
数多く使用されてきました。

こうして私たちは無意識に
黄金比を認識し受け入れ、
自然と黄金比は美しいと
刷り込まれてきたのです。

ミロのヴィーナスを見ると
安心感や心地良さを感じ
自然と惹き込まれてしまいますよね。

 

ミロのヴィーナスの鼻

両腕は欠けているものの
高く美しい鼻は壊れておらず
顔はほとんと無傷の状態で発見されました。
ヴィーナスの横顔を見てみると
額からまっすぐと鼻が伸びているのが
分かります。
「ギリシアノーズ」と呼ばれる鼻です。
この鼻はヨーロッパ人の美の象徴でした。

 

「コントラポスト」(片足重心)

片足重心での立ち姿は
紀元前5世紀のクラシック時代に
確立された表現です。
この片足重心の表現は
「コントラポスト」と呼ばれています。
肩や腕が足の軸からずれているので
表現に動きが出たり、
ゆったりした雰囲気を作ることができます。

コントラポストは
人体によって人間の心理状態を表現する
技法として重宝されました。
このコントラポストによって
彫刻技術は発展してきたのです。

 

着衣の繊細な表現

古代ギリシアでは
ヴィーナスは海から生まれたことを
表現するために
着衣は濡れた質感で造られました。
左足のシルエットが分かるような
着衣の繊細な皺の表現が見てとれます。

 

ミロのヴィーナスの失われた腕

ヴィーナスは両腕が欠けた状態で
発見されましたが
発見されたヴィーナス像の近くには
リンゴを持つ手があったそうです。

ギリシア神話では
「美人コンテスト」の勝利者に
リンゴが授与されたことから
ミロのヴィーナスは
リンゴを持っていたとされています。

 

ミロのヴィーナスは大理石でできている

ミロのヴィーナスは
パロス島で採れた白大理石
造られています。
パロス島はミロス島の隣にある島です。
紀元前7世紀頃からギリシア彫刻では
大理石が使われてきました。
この大理石によってきめ細かい肌の質感
表現されています。

 

ミロのヴィーナスは8頭身

ミロのヴィーナスが造られた
ヘレニズム期の彫刻家たちが目指す
人体表現は
8頭身のプロポーションを造ることでした。

2000年以上も昔からすでに
“8頭身美人”という
人体の美の象徴が
存在していたことになります。

実際のミロのヴィーナスのサイズは
以下の通りで約8頭身になっています。

身長
202.0cm

頭部
26.7cm

バスト
121.0 cm

ウエスト
97.0cm

ヒップ
129.0cm

 

まとめ

ミロのヴィーナスの秘密や見所について
解説してきました。

ミロのヴィーナスの魅力は
美の基盤となるものが凝縮されていて
女性の普遍的な理想像
見事に表現しているところにあるのだ
と思います。

特にミロのヴィーナスで使われている
黄金比はたとえば
名刺やクレジットカードなど
現代でも身近な様々なものに
取り入れられていて
美術に関わるものにとって
欠かせない概念です。

ぜひ作品制作や美術鑑賞の
参考にしてみてください。

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