石膏像とは?原型となるオリジナル像の制作背景など石膏デッサンに役立つ知識を簡単解説

こんにちは、画家の落合真由美です。

今回は石膏像についてお話していきます。

美術予備校などのデッサンの基礎訓練では
たいていの人が石膏デッサン
経験することになります。
たくさんの種類の石膏像があって
色々な石膏像を描いていくうちに
自分が描きやすい像、描きづらい像が
出てきたりします。
それぞれの石膏像に愛着も湧いてきたり
するものです。
私は自分のお気に入りの石膏像が
いくつかあったりしました。
皆さんはどの石膏像が好きですか?

学校の美術室に置いてあったり、
美術予備校でもよく課題として出てくる
ポピュラーな石膏像を
いくつかまとめてみました。

それぞれの像の形態の特徴
まとめていますので
デッサンするときの攻略ポイントとしても
活用していただけます。

 

石膏像とは?

石膏像とはオリジナルの大理石像
ブロンズ像をコピーしたものです。

日本では明治時代から
デッサンの基礎訓練として
石膏デッサンが取り入れられてきました。

形態を正確に把握して描写することが
求められる石膏像は
美術を学ぶ者にとって
大変勉強になるモチーフだからです。

石膏像は白い立体像であることから
陰影の観察がしやすく
白から黒の色調を描き分けていく訓練に
とても好都合です。

また人体と違って動かないので
時間制限なくじっくりと向き合うことが
できる点も重宝されています。

石膏像を見ていると
その造形の美しさや佇まいに
圧倒されませんか?
もともと彫刻家によって
美的に造形された形態なので
どの角度から描いても絵になり、
特徴を掴みやすいという利点があります。
これから代表的な石膏像を
ご紹介していきます。

 

アマゾン

ギリシア・クラシック期 紀元前5世紀
ローマ時代の模刻

女武者だけからなる伝説上の民族で
右の乳は弓を引くために邪魔になるので
切ったとされています。

シンメトリーではなく
微妙に左右差がある形の起伏
をよく見て単純な形にならないように
注意が必要です。

 

マルス

ギリシア クラシック期 紀元前5世紀
ローマ時代の模刻

名前の由来はギリシア神話の軍神アーレスで
オリンポスの12神の一人です。

おそらく左手に槍を持っていると
されています。

形態の特徴としては
顎を引いて斜め下を向いている
ということから
身体に対して頭部の軸が斜めに傾いています。
この傾きを意識しないと
頭部が真っ直ぐ直立したような
不自然な佇まいになりがちです。
また筋肉質な裸体であるために
筋肉が隆起している形の変わり目を
意識的に見つけて
量感の表現をしていくことが大切です。

 

アリアス

ギリシア クラシック期 紀元前4世紀
ローマ時代の模刻 クレタ島の王女

後に酒の神・バッカスの妻に
なったとされています。

形態の特徴は髪型です。
髪のてっぺんの角のような出っ張りから
額、鼻、顎に向かうにつれて
引っ込んでいきます。
この形態の流れを意識せずに顔を描くと
頭部よりも顔の方が前に出ているように
見えてしまいます。

 

ヘルメス

ギリシア クラシック期 紀元前350年頃
作者プラクシテレス

1877年ヘラ神殿跡にて発掘されました。
ヘルメスとは富と幸運の神のことです。

左手に酒の神である幼児ディオニュソスを
抱き、右手に葡萄の房を持って
あやしています。

形態の特徴は頭部の出っ張りです。
頭部に大きな形の切り替わりがあります。
光を斜め上から光と影が6:4くらいに
なるように当てると光と影によって
形態が掴みやすくなります。
右腕は上に掲げていて
左腕は幼児を抱いているという
腕の動きを踏まえたうえでの
肩から胸部の動き、顔の傾きを捉えることが
大切です。

 

ミロのヴィーナス

ギリシア ヘレニズム期 紀元前100年頃

1820年農夫がミロス島の畑で発見しました。

古代オリエントの地母神信仰が
ギリシアに伝わったことが
ミロス島のヴィーナス信仰の起源
とされています。
ヘレニズム期の特徴として
身体や着衣の豊かな曲線や滑らかな髪の表現
などリアルな人間の姿の再現がみられ
女性の普遍的な理想像となっています。

滑らかな髪や豊かな顔の曲線のなかにも
しっかり形の切り替わりを捉え
立体感を出していくことが大切です。

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ラオコーン

ギリシア ヘレニズム期 紀元前1世紀中頃
ハゲサンドロス、ポリュドロス、
アタノドロスの三人の彫刻家作

ギリシア神話に記述された古代都市トロイア
の神官ラオコーンが大蛇にかみ殺される瞬間
の悶絶を表現した作品です。

形態が全体的にゴツゴツしているため
見方が細かくなりすぎると
全体像がどんな形なのか
よく分からなくなってしまいます。
大きな形の切り替わりを把握することと
明暗の関係性をよく整理することです。
触覚的に身体の凹凸を追うだけだと
明暗の秩序が崩れていきます。
どの部分が一番暗いのか、一番明るいのか
明暗の順序立てをきちんと示し
細かいディティールに惑わされずに
全体の面の流れを掴むことです。

この作品は彫刻家ミケランジェロに
大きな影響を与えました。
当時「ラオコーン」の発掘
に立ち会ったミケランジェロは
人間の苦悩や激情、死の瞬間の恍惚さ
を見事に表現したこの作品に
大きな衝撃を受けます。
後のミケランジェロの彫刻作品にも
古代彫刻を彷彿とさせる
ダイナミックな肉体表現が見られます。

 

ボルゲーゼの闘士

ギリシア・ヘレニズム期 紀元前80年頃
作者アガシアス

動く肉体の複雑なプロポーションと
皮膚の質感も再現したリアリズム作品です。

石膏像は胸像になっていて
全身像が見えませんが
全身の大きな動きを踏まえたうえで
胸像を観察すると
強張った顔の筋肉、
首から胸部にかけてダイナミックな力が
加わっている様が見てとれます。
全身の動きを想像して
大きな筋肉の動きを掴むことが大切です。

 

アグリッパ

ローマ 1世紀はじめ

アグリッパは紀元前63年〜12年の人で
初代ローマ皇帝アウグストゥスの婿です。

外交に貢献し、ローマの水道、浴場、測量、
パンテオン建設に携わります。

目立つ特徴である目・鼻・顎の
大きな形の切り替わり以外にも
頭部や頬、首の形の切り替わりを
意識的に見つけて面で捉えていく必要が
あります。

 

カラカラ

ローマ時代

ローマ皇帝(在位211年〜217年)で本名は
マルクス・アウレリウス・アントニウスです。
カラカラとはガリア地方の衣装の名から
来ています。

この像はミケランジェロが
「ブルータス」を制作する際に
影響を与えたとされています。

 

ゲタ

ローマ時代

カラカラ帝の弟で本名は
パブリウス・セプティミウス・ゲタです。
父帝が亡くなると兄と共に皇位を継承するも
兄に殺されてしまいます。

 

ジョルジョ

ルネサンス期 1416年
作者ドナテロ

小アジアの王子で
3世紀のキリスト教の殉教者です。

頭部から首にかけての微妙な傾きを
よく見ることと
身体を覆う布のディティールを描く前に
身体の量感や凹凸を把握したうえで
描き進めることです。

 

奴隷

ルネサンス期 1513年
作者ミケランジェロ

奴隷がテーマの6体連作のうちの一つです。
人間が死を迎える瞬間の恍惚な表情が
たくましい肉体と共に表現されています。
この作品はユリウス2世の墓廟のために
作られましたが未完成で終わっています。

 

メディチ

ルネサンス期 1526年〜1533年
作者ミケランジェロ

メディチ家は15〜18世紀のフィレンツェで
繁栄したイタリアの財閥です。

カールした髪型や輪郭のハッキリした目鼻口
が特徴ですが
複雑なディティールに惑わされて
見方が細かくなりすぎないように
形を単純化して特徴を捉えることです。
特徴点を掴みしっかり描くところ、
描かずに省くところとの力の抜き差しが
必要です。

 

ブルータス

ルネサンス期 1538年
作者ミケランジェロ

ブルータスは紀元前85年〜42年の人です。
ローマ共和政の支持者でしたがカエサルの
独裁が強まり暗殺の首謀者になります。

衣服には弟子の手が入っていますが
頭部にはミケランジェロらしい
未完成ながらも力強い表現が見られます。

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モリエール

ロココ期 18世紀

フランスの代表的劇作家(1622年〜1673年)で
風俗喜劇「人間嫌い」「ドン・ジュアン」が
代表作。

この像はパリ、モリエール通りにあります。

毛髪や顔、衣服に
捉えやすい大きな特徴点があるので
光が片側から強めに当たるセッティングが
描きやすいです。

 

まとめ

石膏像と言えば石膏デッサンを連想し
美術の勉強として捉えがちですが、
石膏像のオリジナル像は
文化遺産や歴史上の肖像彫刻でもあります。

ただ淡々と形態を追うだけでなく
作者や時代の制作背景が分かると
別の思い入れが出てきたりしますよね。

像から感じ取れる様々な思いを
デッサンに反映し
ワクワクしながら石膏デッサンができたら
と思います。

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