こんにちは、画家の落合真由美です。
「絵画鑑賞」と聞くと
一部の美術ファンだけのものというイメージ
が少なからずありますが、
ちょっとでも興味があっても
難しくとらえてしまって敬遠してしまうのは
もったいないことです。
美術ファンであってもそうでなくても
絵画鑑賞で得た体験は感性が豊かになったり
癒しになるだけでなく、
意外な場面で話題のひとつになり
自分自身の知的財産にもなっていきます。
今回は絵画鑑賞にあまりなじみのない方でも
分かりやすく楽しんで鑑賞できる
絵画鑑賞のおすすめのジャンルについて
解説していきます。
目次
- 1 絵画鑑賞は西洋美術が人気
- 2 オススメジャンル①写実主義の作品
- 3 オススメジャンル②風景画
- 3.1 北方ルネサンス(緻密で写実的な表現)
- 3.2 マニエリスム(技巧的、作為的な様式)
- 3.3 バロック(豪華絢爛な躍動感ある表現)
- 3.4 ロココ(鮮やかな色彩と甘美で優美な世界観)
- 3.5 アカデミスム(保守的で正統派な表現)
- 3.6 ロマン主義(作品に物語があり大胆な構図)
- 3.7 バルビゾン派(自然風景と農民の日常を描く)
- 3.8 ラファエル前派(繊細で鮮やかな描写)
- 3.9 印象派(色彩や光の印象を描いた)
- 3.10 後期印象派(独断的な形態や色の表現)
- 3.11 象徴主義(人間の苦悩などを象徴的に描く)
- 3.12 ナビ派(秩序ある平面の表現を追求)
- 3.13 素朴派(稚拙さはありつつ独特の魅力をもつ)
- 3.14 ウィーン分離派 (19世紀の伝統芸術からの分離を目指した)
- 3.15 ドイツ表現主義 (大胆な色彩感覚と抽象的な表現)
- 3.16 20世紀アメリカン・リアリズム
- 4 オススメジャンル③肖像画
- 5 まとめ
絵画鑑賞は西洋美術が人気
絵画鑑賞では
西洋美術が圧倒的に人気のようです。
日本画と比べると西洋画は
立体感や遠近感のある写実的な表現
をするため鑑賞者は引き込まれやすく、
感情移入もしやすいので
分かりやすいところが人気の理由
なのかもしれません。
西洋美術では様々な様式が
生み出されてきた歴史があります。
その中から美術鑑賞初心者でも
画家の意図をくみ取りやすく
楽しんで鑑賞しやすいジャンルを
ご紹介していきます。
私がオススメしたい美術鑑賞のジャンルは
写実主義画家の作品
風景画
肖像画
です。
オススメジャンル①写実主義の作品
写実主義とは
19世紀中頃フランスを中心に起こった
美術運動のことです。
それまでの時代は神話や宗教、貴族たちを
テーマとした理想とする美しさを
追い求めるような描き方がなされてきました。
しかし、それらを否定するように
起こったのが「写実主義運動」です。
写実主義の画家たちは
モチーフを美化せずに
ありのままの現実や日常を客観的に
描きました。
時には野暮ったく不格好な物でも
表現の立派な題材であると捉え
ためらいなくリアルに描くことに徹しました。
労働者や農民、自然風景などが
モチーフとなり、画家の高い技術や
鋭い観察力によって
見るものが引き込まれる味わい深い作品が
多く生み出されました。
日常風景のリアルな描写は
鑑賞していて感情移入しやすいですし
リアルな描写に自然と引き込まれます。
代表的な写実主義の画家たちをご紹介します。
ジャン=バティスト・カミーユ・コロー
1796-1875
理想化することなくありのままの姿で
詩情豊かに描いた風景画が傑作です。
オノレ・ドーミエ
1808-1879
鋭いまなざしで当時の人々の現実を見つめ、
強烈な社会批評を込めた作品を残しています。
ジャン=フランソワ・ミレー
1814-1875
農家の生まれであるミレーは農民の日常を
繊細に表現した作品を描きました。
ギュスターヴ・クールベ
1819-1877
独自の視点で労働者や一般の人々の生活を
描き写実主義運動の中心人物として
知られています。
エドゥアール・マネ
1832-1883
パリの情景や人々を
伝統的な技法にとらわれず
写実性に平面的な要素を取り入れたような
描写で革新を起こしました。
アンリ・ファンタン=ラトゥール
1836-1904
花や果物などの鮮やかで瑞々しい瞬間の様子
を感性豊かに描きました。
これらの写実主義の画家たちは
形態、遠近感、光と影、色を正確な描写力で
表現していて見ごたえのある作品
になっています。
オススメジャンル②風景画
風景画の鑑賞は安らぎや癒し
を与えてくれます。
絵を見ながら光や風、気温、自然のざわめき
や空気の匂いを想像してみると
実際にその場で体感しているような錯覚
に陥ります。
歴史画は描かれた時代背景やテーマが
分からないと難しく感じがちですが
風景画は見たままを感じ取って
楽しむことができます。
美術史の流れとともに風景画も
様々な表現がなされてきました。
それぞれの時代ごとにオススメの画家を
ご紹介していきます。
北方ルネサンス(緻密で写実的な表現)
アルブレヒト・デューラー
1471-1528
繊細で精度の高い描写が特徴です。
ピーテル・ブリューゲル
1525-1569
風景画と民族画を融合させたような作風です。
マニエリスム(技巧的、作為的な様式)
エル・グレコ
1541-1614
独自の画法を貫き、劇的で臨場感のある作品
を描きました。
バロック(豪華絢爛な躍動感ある表現)
ピーテル・パウル・ルーベンス
1577-1640
生命力にあふれた力強くシャープな筆さばき
が特徴です。
ディエゴ・ベラスケス
1599-1660
高い観察力と細やかな描写が見所です。
レンブラント・ファン・レイン
1606-1669
ハッキリとした明暗の描写によって
立体感や存在感を表現しています。
ヨハネス・フェルメール
1632-1675
光を巧みに捉えたクリアな描写をしています。
ロココ(鮮やかな色彩と甘美で優美な世界観)
ジャン・オノレ・フラゴナール
1732-1806
繊細な描写と明るい色彩で
爽やかな雰囲気です。
アカデミスム(保守的で正統派な表現)
ジャン=レオン・ジェローム
1824-1904
中近東、アフリカの景色を描きました。
ロマン主義(作品に物語があり大胆な構図)
フランシスコ・デ・ゴヤ
1746-1828
見る人に強い印象を与えるメッセージ性
があります。
ウィリアム・ターナー
1775-1851
大気、光、水など流動的な自然の描写を
得意としました。
バルビゾン派(自然風景と農民の日常を描く)
ジャン=パティスト・カミーユ・コロー
1796-1875
繊細な色遣いで心象風景を描きました。
テオドール・ルソー
1812-1867
自然のありのままの姿を生々しく描きました。
コンスタン・トロワイヨン
1810-1865
牛や羊などの家畜を描いた作品が魅力です。
ジャン・フランソワ・ミレー
1814-1875
農民の素朴な生活をありのままに描きました。
シャルル・フランソワ・ドービニー
1817-1878
オワーズ川、セーヌ川、海岸などを
題材とした作品を描き「水の画家」とも
言われ、水辺の情景を素早いタッチで
描きました。
ナルシス・ディアズ・ド・ラ・ペーニャ
1807-1876
ルソーの影響を受けて写実的に風景を
描きました。
ジュール・デュプレ
1811-1889
大樹、波、荒れた空などを描き
躍動感ある筆遣いでドラマチックな風景画
を描きました。
ラファエル前派(繊細で鮮やかな描写)
ジョン・エヴァレット・ミレイ
1829-1896
草花の精緻な描写が特徴です。
ウィリアム・ホルマン・ハント
1827-1910
鮮やかな色彩と細密描写、詩的な表現が
特徴です。
印象派(色彩や光の印象を描いた)
クロード・モネ
1840-1926
光が刻々と移り変わる様子を描写しました。
カミーユ・ピサロ
1830-1903
農村や田園風景を描きました。
ジェームズ・マクニール・ホイッスラー
1834-1903
全体感を重視し色彩と構図の調和を追求した
作品を残しています。
アルフレッド・シスレー
1839-1899
穏やかで水平垂直の構図と奥行きが特徴です。
ベルト・モリゾ
1841-1895
自然の緑を基調とした穏やかな作風です。
後期印象派(独断的な形態や色の表現)
フィンセント・ファン・ゴッホ
1853-1890
大胆な色遣いと自由で活き活きした表現が
魅力です。
ポール・ゴーギャン
1848-1903
平坦な色面と太い輪郭線での独自の画風を
確立しました。
ポール・セザンヌ
1839-1906
あらゆる角度からの観察で独自の空間表現
をしました。
象徴主義(人間の苦悩などを象徴的に描く)
アルノルト・ベックリン
1827-1901
幻想的で神秘的な表現をしています。
エドヴァルド・ムンク
1863-1944
うねるような筆致とインパクトある色彩が
特徴です。
ナビ派(秩序ある平面の表現を追求)
エドゥアール・ヴュイヤール
1868-1940
大胆で装飾的に風景を描写しました。
ピエール・ボナール
1867-1947
室内風景などの身近な題材に内面を
反映させました。
素朴派(稚拙さはありつつ独特の魅力をもつ)
アンリ・ルソー
1844-1910
色彩感覚に優れ幻想的な雰囲気の描写
をしました。
ウィーン分離派
(19世紀の伝統芸術からの分離を目指した)
グスタフ・クリムト
1862-1918
神秘的な雰囲気の風景画を残しています。
ドイツ表現主義
(大胆な色彩感覚と抽象的な表現)
エルンスト・ルートヴィッヒ・キルヒナー
1880-1938
原色系の鮮やかで大胆な色使いが特徴です。
パウル・クレー
1879-1940
ユーモアや精神性を感じる作風です。
20世紀アメリカン・リアリズム
アンドリュー・ワイエス
1917-2009
20世紀アメリカ、リアリズムの画家
アメリカの田舎の心象風景を
表現豊かに描きました。
オススメジャンル③肖像画
肖像画はその時代の人物の個性や魅力が
表現されていて、その人の人生を
垣間見るように共感したりしながら
楽しむことができます。
代表的な肖像画家をご紹介します。
レオナルド・ダ・ヴィンチ
1452-1519
「モナ・リザ」が有名ですね。
人物の輪郭をはっきり描かずに
スフマートというぼかし技法で描き、
背景は空気遠近法で描かれています。
レンブラント・ファン・レイン
1606-1669
バロック期に活躍した画家です。
光と影を強調した描き方で人物を
ドラマチックに描いています。
ヨハネス・フェルメール
1632-1675
フェルメールは女性をモデルに描いた作品が
数多くあります。
こちらは「牛乳を注ぐ女」ですが
「真珠の耳飾りの少女」も代表的です。
ジャック=ルイ・ダヴィッド
1748-1825
他には
ナポレオンを英雄として勇ましく描いた作品
「サン=ベルナール峠を越えるボナパルト」
も有名です。
エドガー・ドガ
1834-1917
バレエの踊り子の躍動感ある動きを
的確に捉えた作品を数多く残しています。
ピエール=オーギュスト・ルノワール
1841-1919
少女の肖像画を得意としました。
フィンセント・ファン・ゴッホ
1853-1890
自己と向き合い沢山の自画像作品を
残しています。
ポール・ゴーギャン
1848-1903
後期印象派としてタヒチの住民を描いた作品
が有名です。
まとめ
絵画鑑賞にオススメの作品を
ご紹介してきました。
一見同じモチーフを描いていても
それぞれの時代、それぞれの画家ごとに
対象への向き合い方が違うのが
良く分かります。
絵画鑑賞によって
その時代のリアルな実生活を垣間見たり、
実際にその場に出かけたような
気分になったり、
実際にその人物に会ったような感覚
になったりします。
数百年前に描いた画家たちの視点に
触れられるのは感動モノです。
ぜひ美術館に行って鑑賞してみてください。