リアルな油絵を描くためには?フランドル技法・ヴェネツィア技法・ルーベンス技法も解説

こんにちは、画家の落合真由美です。

15世紀に「油絵」の技術が確立され、
様々な描き方や表現方法が生み出されて
きました。
油絵の具は伸ばしたり暈したり
何層も重ねたりすることで複雑な色味を
表現したり、繊細で写実的な表現
向いている画材です。
空間の奥行きや明暗、質感までもリアルに
描くことができます。
リアルに細密に描かれた作品はやはり
見ごたえがありますよね。
美術史の中で確立されてきた技法を
紹介しながら油絵でリアルにモノを描く際の
描き方のポイントを解説していきます。

美術史から紐解く油絵技法

油絵が誕生してからその特性を活かした技法
が時代ごとに研究され、見事な写実性のある
作品がこれまで生み出されてきました。

これから紹介する技法は

フランドル技法

ヴェネツィア技法

ルーベンス技法

です。
それぞれの時代の画家たちの工夫や描写方法
をご紹介します。

 

フランドル技法

フランドル技法は15世紀に
ヤン・ファン・エイクによって
生み出されました。

それまでテンペラによって描かれていた時代、
油絵の技法はヤン・ファン・エイクによって
確立されたのです。
明暗や立体感がしっかり描かれ、細い筆に
よって細密な描写をするのが特徴です。
この頃は現代のようなキャンバスや
チューブ絵の具はありませんでした。
まずは白亜地(板に白い下地を施したもの)
に下絵を緻密に描いて準備します。
明るい部分は下地の白を活かしながら
透明色の層を何層も重ねて手間と時間を
かけて制作していくスタイルです。
絵の具の層を重ねるにあたって乾燥時間を
しっかり設ける必要があります。
半乾きのまま絵の具を重ねると色が
濁ってしまうからです。
このフランドル技法は
油絵の具の透明度を活かして色を何層も
重ねて塗膜を形成することでモチーフの
リアルな質感、深みのある色、重厚感が出る
のが特徴です。
平滑な画面で透明感のある絵肌になり
仕上がりもきれいです。
この時代はまだキャンバスやチューブ絵の具
がなかったからこそ、流動性のある
絵の具の透明度を活かした重ね塗りの手法
は見事です。

 

ヴェネツィア技法

ヴェネツィア技法は16世紀に
生み出されました。
それまで油絵は板に描いていましたが
この頃からキャンバスが使われ始めます。
キャンバスが使われるようになったことで
凹凸のあるキャンバス地に馴染むように
硬く練った不透明な絵の具が
使われ始めたことで技法にも変化が現れます。

褐色の下地を施し、
明部には不透明な白い絵の具が使われます。
フランドル技法での明部の表現は下地の白を
活かしていたのに対して、
ヴェネツィア技法は明部を不透明な白い
絵の具で、暗部を透明な暗色の絵の具で
同時に描き進めていくので描写のスピード感
がアップします。
絵の具を重ねていくことで
時間の経過と共に下地の褐色が透けて
ダークな雰囲気の画面になるのが特徴です。
ヴェネツィア技法は光と影を演出する
ドラマチックな陰影表現に向いている技法
です。
この時代は画家カラヴァッジョなど
光と影の演出にこだわったバロック様式の
見事な作品が生み出されました。

 

ルーベンス技法

ピーテル・パウル・ルーベンスは
17世紀バロック美術を代表する画家で
リアルで迫力ある人物描写が特徴です。
ルーベンスはヴェネツィア時代の作品に
起きている変色問題を改善するため
下地は明るいグレーや黄色を施してから
茶系でデッサンするように描き進めて
いきました。
陰影部分は茶系の色がそのまま活かされて
います。
こうすることで時間が経過しても
変色しにくくクリアな発色をキープしやすく
なるだけでなく手早くリアルな描写
することができます。
ルーベンスは大胆な筆使いと明るい色彩を
上手く使いこなしていることが特徴です。

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油絵でリアルな描写をするための道具

油絵といっても様々な表現や描き方が
ありますね。
見たままそっくりに写実的に描いている作品、
筆跡をあえて残すような力強いタッチの作品、
絵の具をたっぷり画面に載せて
絵の具のテクスチャーを楽しんでいる作品、
平面構成のように色面を配置した作品。
画風によって使う道具も異なります。
リアルな描写のために使う道具も
変えてみると良いでしょう。

 

支持体

木製パネルに下地塗りすることで
平滑な支持体をつくることができます。
キャンバスに描くこともできますが
キャンバス地は表面に凹凸があり、
より写実的な表現や細密描写にこだわる場合、
パネルの方が向いています。
下地塗りをする際はジェッソが便利です。
様々なメーカーから販売されていて、
固練りと軟練りがあります。
表面を平滑でツルツルにしたい場合は
軟練りが向いています。
ジェッソを水で少し薄めてからパネルに塗り、
乾かしたら目が細かい紙やすりで削ります。
パネルの地が見えなくなるまで何層も
繰り返したら完成です。

 

軟毛筆

油絵を描く際、基本的には豚毛が一般的で
使いやすいですが、豚毛で描かなくては
いけないわけではありません。
筆跡を残さずに繊細なトーンを作ったり
細密な描写をする際は
セーブル(イタチ科の毛)やナイロンなどの
軟毛筆を使用すると描きやすくなります。
柔らかくて繊細なトーンや細部の描写は
軟毛筆が向いています。

 

刷毛、ファン(扇形の筆)

油絵の具は伸ばしたり暈したりすることで
筆跡なく滑らかでリアルな質感を作ることが
できます。
刷毛やファンと呼ばれる扇形の筆があると
暈しの表現がきれいにできるので重宝します。

 

油絵でのリアルな描写に必要な力

油絵の伝統的な技法から
油絵でリアルな表現を追求したいときに
必要なポイントをまとめました。

デッサン力

油絵の具を上手く使いこなすこと以外にも
基本的なデッサン力は必須です。
油絵でリアルな描写をするためには
油絵と描き方の工程が似ている木炭デッサン
でデッサン力を鍛えることをオススメします。

 

実物と写真の両方から観察

リアルな表現には観察が欠かせません。
実物をよく観察することと写真に撮ったもの
を観察することと両方の視点で見ていくと
良いでしょう。
実物を観察することで三次元として掴むこと
ができます。
写真では測ることができない空間の奥行き、
モチーフ同士の距離感、立体感、
モチーフの量感は肉眼でしっかり捉えること
で説得力のある描写に繋がります。
写真は三次元が二次元に置き換えられている
ので効率的に明暗や色の描き分けが
しやすくなります。

 

明度と彩度

明度とは色の明るさの度合いを示します。
彩度とは色の鮮やかさの度合いを示します。
まずは白や茶系の絵の具で明度を観察して
明暗と立体感を構築しましょう。
ある程度構築できてから次に彩度の表現に
取り組むと良いでしょう。
最初はモチーフ個々の色は無視して
明暗の秩序を組み立ててから
色を表現することで描き進めやすくなるから
です。
明度と彩度を両方考慮して観察するのは
プロでも難しく、別々に取り組むことで
解決しやすくなります。
いきなり色を使うと画面の秩序に合わず
浮いてしまったりすることがあると思います。

 

質感の表現

油絵の具は油で練られているので艶感や
透明感があるのが特徴です。
この油絵の具の特性からモチーフの質感を
リアルに表現することができます。
地塗りをした上で明部は不透明色で
描いていくと乾いた凸凹した質感が
表現できます。
暗部は透明色を薄く重ねることで深遠な表情
を作ることができます。
モチーフの表面の質感をよく観察して質感も
再現しましょう。

 

絵の具の分量

描写していくときに絵の具を重ねていきます
が明暗と暗部で絵の具の分量に変化をつける
ことでリアルな描写に繋がっていきます。
明部は不透明色を使って比較的厚めに
絵の具を載せていくと表面の表情が
分かるような乾いた質感や飛び出す様な
立体感が出てきます。
暗部は下層の絵の具の上から透明色を
溶き油で薄めて重ねることで平坦で
しっとりした質感奥行きや深みを
表現できます。
光と影のコントラストもこの方法で
描き分けができます。
油絵でリアルな描写を目指す場合は
画面に載せる絵の具の分量をいきなり
厚くしないことです。
何層も重ねながら描いていくことで
筆跡が残らないリアルな質感に仕上がって
いきます。

 

まとめ

油絵の歴史をヒントに
油絵でのリアルな描写の仕方について
解説してきました。

大きなポイントはこちらです。

 

観察が大事

デッサン力を磨くこと

適した支持体を用意すること

適した画材を使うこと

明度と彩度は別で考えること

しっかり乾かすこと

地塗りをしてから薄い層を少しずつ重ねて
いくこと(絵の具を多く載せすぎないこと)

 

巨匠たちもその時代に存在した画材の使い方
を上手く工夫してその時代や自分に合った
描き方を確立してきました。
現代では支持体、絵の具、筆、画用液、
乾燥促進剤などの画材も進化して便利に
なっています。
描く力を鍛えながらも画材の力をどんどん
活かしましょう。

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