素朴派の画家アンリ・ルソー作品の魅力とは?西洋美術史に与えた影響を分かりやすく解説

こんにちは、画家の落合真由美です。
今回は素朴派の画家アンリ・ルソー
についてのお話です。

アンリ・ルソーの作品では
《夢》《蛇使いの女》などが有名ですが
ルソーの作品は独特な雰囲気をまとって
います。ルソーは正当な美術教育を
受けていないためデッサン力が伴わず
ヘタウマな画家とも言われていますが、
何となく惹かれてしまうのはなぜでしょう?

現代ではアートの価値観が多様化し
様々なスタイルのアートを見慣れている
私たちですが、当時のアカデミックな美術界
ではルソーのような自由な発想で絵を描く
画家が現れたことは衝撃的でした。

ルソーは批評家たちからは酷評されて
いましたが、一部の画家たちは彼の斬新さに
惹かれていました。
ルソーの作品は現代の私たちが見ても新鮮で
おしゃれな構成で不思議と引き込まれます。
見ていると落ち着くような
部屋に飾っておきたくなるような不思議な
感覚になります。

ルソーの作品を見ていると
絵の上手い下手とは何なのか?
絵を描くってどういうことだろう?
と改めて考えさせられます。

今回はアンリ・ルソーの生涯ルソーの画家
としての魅力について分かりやすく
解説していきます。

素朴派とは?

ルソーは素朴派に分類される画家ですが
素朴派について解説していきます。

素朴派とは19世紀から20世紀にみられる
美術教育を受けていないものによるアート
のことです。
素朴派の作品は技法にとらわれずに直感的に
描かれています。
その時に流行している美術運動の流れとは
無関係にそれぞれの画家たちは独自の画風を
貫きました。

素朴派の画家たちは色彩感覚に優れていたり、
生命力にあふれていたりする
のが特徴です。
技術的に稚拙でも独特の魅力があり世界中の
人々に親しまれています。

 

ルソー以外の素朴派の画家は

フランスのルイ・ヴィヴァン
アメリカのグランマ・モーゼス
日本の谷内六郎、山下清
イギリスのアルフレッド・ウォリス
などです。

アンリ・ルソーの生涯

アンリ・ルソー1844-1910
フランス・ラヴァル市生まれ

ルソーは20数年間パリ市の税関の職員
をしながら日曜日に絵を描くという日曜画家
としての生活を送っていました。
そのためルソーには「税関吏・ルソー」
愛称が付けられています。

ではルソーの画家としての生涯を
年表でたどっていきます。

1885年41歳
「サロン・ド・パリ」に初めて作品を
出品するも落選します。
サロンド・パリとは国の文化力を上げるため
の政府主導の官展のことです。
歴史画や肖像画のような秩序ある作品が
求められ独自の画風を貫くルソーの作品は
落選させられます。

1886年42歳
「アンデパンダン展」に出品し初めて
ルソーの作品が世間の目に触れます。
サロンに認められない画家たちが新たな
グループを作ったことでサロン・ド・パリは
徐々に民営化されるようになっていきました。
アンデパンダン展は新印象派のシニャックら
によって立ち上げられました。
アンデパンダン展は無審査で自由に出品
できる展覧会です。

ルソーは平日は税関で勤務し日曜に絵を描く
日曜画家のスタイルをしばらく貫きました。
これまではサロンに認められないと画家
としても認められないような風潮でしたが
誰もがアンデパンダン展に出品する機会を
与えられたことで様々なタイプの画家が
評価されるようになりました。

1893年49歳
脱サラし画家になることを決意し、
モンパルナスに拠点を移します。

1897年53歳
貧乏生活を送りながら
《眠るジプシー女》を描きました。

1910年66歳
晩年の傑作《夢》を描き、
その半年後に逝去しました。

ルソーが美術史に与えた影響

ルソーが作品を発表し始めた当初、
批評家たちは子供が描いたようだと揶揄し
評価に困っていました。
しかし徐々に前衛的な画家たちの中から
ルソーを評価するものが現れはじめます。
特にピカソはルソーの革新的な描法に
注目していた一人です。
ルソーの絵が一部の画家たちから注目を
集めたのは素朴派という名の通り、見た人に
親しみを与えるように純粋に絵を楽しんで
いる素朴さにありました。
伝統的な西洋美術の画法においては
ルソーの画風は特異なものでした。
ルソー自身は奇をてらって描いたのではなく
純粋に自分の描きたいものを描いていたと
思われます。
西洋美術は遠近法などを駆使して目で見た
通りに描く技術を確立してきた長い歴史が
あります。
上手い絵イコール写実的に描いた絵という
固定観念が今の時代でも少なからずあると
思います。
しかしそれは社会によって自然と作られた
価値観であり、それだけが正解ということ
ではないのだと思います。
上手い絵とは何だろう?
絵を描くとはどういうことだろう?と
あらためて考えてみたくなります。

ルソーの晩年においては絵画に新しい
価値観が見出され、今までにない革新的な
表現を生み出そうとする動きが徐々に
高まりつつありました。
アカデミーで習得した描写力の高い画家より
革新的な表現をする画家のほうに注目が
集まりつつありました。

1905年頃にはマティスらによるフォービズム
が生まれ、
1907年頃にはピカソらによってキュビズム
生まれました。

キュビズムとは何か?分かりやすく簡単解説 | ピカソが「ゲルニカ」に込めた思想とは?

ルソーの素朴派も同じくらいのタイミングで
流行しました。

ルソーの作品は世の中にそういう疑問を
投げかける力を秘めていたのだと思います。

アンリ・ルソー作品の魅力

ルソー作品を見てみると…
独学で絵を描いていたので
デッサン力は未熟です。遠近感、立体感は
なくモチーフ同士の大きさ関係も無秩序で
全体のバランスが整っていません。
そういう部分が味わいや親しみを与えている
とも言えます。

ルソーの描く世界は
現実と空想が入り混じったような神秘的な
世界観で表現されています。
ルソーの作品を見ていて何となく惹かれたり
穏やかな気持ちになるのはルソーの色彩感覚
にあるのではないかと思います。
色の出し方や全体の色面構成は
とてもバランスが良く、どうすれば見せたい
色が引き立つかよくわかっているように
見えます。鮮やかな色をきれいに表現して
いて稚拙ながらも精密に神経を使って
ディティールを描いているのが分かります。
改めて繊細な感覚を持っていた画家なのだと
感じます。

ルソーはよくジャングルをモチーフにして
いましたが、ルソーの草木を表現するときの
色遣いを見てみてください。
緑の色のトーンが使い分けられていて色彩に
対するこだわりが伝わってきます。


鮮やかな色を引き立たせるための黒の扱い方
も優れています。黒は強い色なので黒の強さ
や配置を誤ると悪目立ちしてしまい、
画面の雰囲気を壊してしまいます。
周りの色に馴染むように混色をして濃い茶色
や濃い緑色にするなどして黒っぽく見せたり
するのですが、トーンを調整する際に加減が
難しいところを天性でやってのけています。
ルソーの黒は画面にやさしくなじみながら
しっかり空間を引き締めていて、とても心地
良く構成されています。

ルソーが亡くなってから次第にルソー自身の
評価が高まっていったのはルソーの
オリジナリティーにあります。
作品を自分の描きたいように純粋に描いて
いること、それまでの基本や常識に
とらわれずに描ききっていることです。
神秘的でシュールな作風はのちに起こる
シュルレアリスムの先駆けとも言われて
いて美術史に大きな影響を与えました。

ダダイズムとは?シュルレアリスムとは?画家ルネ・マグリットについても分かりやすく解説

 

ルソー代表作
《夢》1910年
《眠るジプシー女》1897年
《蛇使いの女》1907年

 

まとめ

素朴派やアンリ・ルソーの生涯、
ルソーが美術史に与えた影響について解説
してきました。
わたしはルソーの作品をきっかけに絵画の
価値を改めて考えさせられました。
今日まで様々な美術運動が
世界中で展開されてきましたが、
人類がモノを表現することを試みてから
様々なアプローチに挑戦してきた歴史を見る
ことは本当に面白いです。
ルソーの生涯を知れば知るほどルソーの作品
も味わい深くなりますね。

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