こんにちは、画家の落合真由美です。
日々、絵の上達を目指す過程で
一番のネックになってくるモチーフ、
そして一番描きごたえのあるモチーフ
と言えば
人物画なのではないでしょうか?
なかなかモデル本人に顔が似ずに
苦労する人が多いです。
人物画はなぜ難しいのでしょうか?
美大受験を控えている方や
藝大合格レベルを目指している方だけでなく
人物画をはじめとするデッサンにおいては
上達を目指す過程で誰しも悩みが多いです。
高いレベルのデッサン力を
つけていくためには
どうしたら良いのでしょうか?
デッサンとは
器用に手先を使う職人技によるもの
だと思われがちですが、
実際はそうではありません。
実はデッサンとは
私たちの持つ凝り固まった偏見を
取り除いていかなくてはならない
マインドやメンタルのコントロールが
必要な行為です。
人物画をはじめとするデッサンにおいて
大切なマインドとは何なのか
詳しく解説していきます。
人物デッサンが難しい理由
私たち人間は見たものをどうしても
象徴的に捉えてしまう癖があります。
普段、モノを名前で呼んでいる私たちは
「これはこんな形だ」と
無意識に固定観念を持ってしまっています。
それが邪魔をして目に映っている形が
どのような形なのか気づきにくい状態
になっているのです。
人物の顔を見ると同時に
普段イメージしている自分の顔や
親しい人などの顔の形を連想して
実際の目に映っている顔の形に
気づきにくくなります。
人物画を描いていて観察を怠っていると
描いているはずの他人の顔が
自画像のようになってしまう現象が
よく起きます。
普段見ている自分の顔のイメージが先行して
観察できなくなっているのです。
こうなると
目に映ったものを描いているのではなく
頭で考えている先入観を
描いているも同然です。
デッサンでは無意識に
「この形はこうあるべき」と
はっきり示したくなりますが、
世の中のあらゆるものの見た目は
一つ一つが定義できないうえに
言葉で表しきれない
独特の特徴を持っています。
デッサンでは明らかでないものや
定義できないあいまいなものこそ
重要視して観察していく必要があります。
長い経験を積んだ画家でも
何かしら自分の偏見を持って
絵を描いているものですが、
できれば目に映るものに
いつも驚きを感じるような心の状態で
描くのが理想的です。
世の中の自然物は
先入観よりずっと意外な形をしていること
に気づかなくてはいけません。
また私たちは本能的に
直線的な縦と横の軸に
安心感を持ってしまうところがあります。
そしてちょっとでも形が傾いていたら
不安を覚え、水平垂直の安心感に
すがりつきたくなってしまいます。
実際はいびつな形をしているのに
直線的に簡素化して描いてしまったり、
傾きを見て見ぬふりをして
不自然で硬直した形を
描いてしまったりするものです。
こういった目に映るものを
象徴的に捉えてしまう私たちの癖が
モノを正確に観察することを
邪魔しているのです。
その結果デッサンも狂っていき
「デッサンは難しい」と感じるのです。
象徴的な先入観を
少しでも取り払おうとすることが大事ですね。
デッサンで大事な全体のバランス
先入観を取り払って観察に徹するには
どうしたら良いのでしょうか?
私たちが普段モノを見る時は
視野全体でモノを認識します。
人間の目に映るのは一つの焦点だけでなく
視野全体ということですね。
ですが絵を描き始めたら
いつものように視野全体で見なくなる人が
大半になってしまいます。
視野の中のある一つの焦点だけを
じっと見つめたまま
視線が動かなくなってしまうのです。
いつもとは違う見方で絵を描けば
いつも見ている印象と違う印象になるのは
当然です。
目が静止したままだと
いつもの視線の自然な流れは狂って
その結果デッサンも狂います。
私はデッサンとは
目に見える一つ一つを丁寧に細かく見ていく
ことだとずっと思っていました。
しかしデッサンの枚数をこなしていく中で、
見方が細かく部分的になればなるほど
デッサンは思いもよらず狂っていき
不自然になっていくことを実感しました。
デッサンとは見えるもの自体を描く
のではなく
それらの関係を整理して伝えることなのだ
と気づきました。
人物の顔を描くときでも
パーツ一つ一つを見るのではなく
パーツが顔全体の中でどのくらいの大きさで
どのような配置になっているのか
ひたすら関係性を比べていく必要があります。
人物の脚を描くときにも
脚だけを見るのではなく
身体全体の中で脚がどうあるのかを
伝える必要があります。
絵を描くときも普段通りの見方をすることが
目に映るものを正確に再現すること
につながります。
もしデッサンがとても難しく感じていたら
モノに対する固定観念が
強すぎるのかもしれません。
デッサンにおいて困難なのは
その手法ではなく
私たちの強い固定観念による習慣が
原因なのだということです。
毎日見ている自分や他人の顔や
人体構造に関しては
特に象徴化や偏見が生まれやすく
デッサンをするときの足かせになっています。
デッサンの中でも特に人物画が難しい理由は
ここにあります。
そのため人物画を攻略することこそ
デッサン力の向上につながると言えます。
人物デッサン上達のポイント
人物デッサンで気を付けるべき
その他具体的なポイントはこちらです。
人物デッサンでは身体のパーツ一つ一つを
バラバラな部分の塊として描きがちですが
各部は身体全体として
緩やかなカーブでつながっている
という意識を持つことが大切です。
このつながりを意識しないと
エネルギーの基本的な流れが
遮断されてしまい不自然な印象になります。
腕や脚などは曲げたとしても
体と連結しているので
他の体の部位と連動して動きます。
曲げたことによってほかの部位が
どのような動きの流れになっているのか
よく見る必要があります。
また私たちの目は身体のカーブや傾きを
どうしても実際よりも控えめに捉えがちです。
私たちがよく描きがちな直線や垂直の形は
身体のどこにも存在しませんし、
平行な線やフォルムも存在しません。
皮膚に覆われていて
実際には観察しづらい筋肉は骨格に対して
横切る様に集まっています。
また複数の筋肉の端が同じ位置で集まること
はありません。
このことを意識すると
身体のフォルムを豊かな線や調子で
捉えることにつながっていくと思います。
描き方が特に難しいものというのは
実はありません。
私たちの持つ象徴的な概念が
やっかいなもので、
これが観察行為と衝突したときに
描くのが難しいと感じてしまいます。
デッサンは
細部をどれだけ見分けられたか、
どれだけ細かく描けたかにこだわりがち
ですが実は一番難しいのは
モノ同士の関係性を見て
全体感を捉えることなのです。
まとめ
私たちはどうしても先入観を持ちがちだ
と分かっていれば観察の態度も
より慎重になっていくでしょう。
普段見ている眼の使い方で
モノを見て描く訓練としては
手早く全体を短時間で描くクロッキー
が効果的です。
また画面を離れたところから見たり、
描いた画面をスマホで撮影して
客観的に見たり全体の関係性を
常に自分でチェックして描き進めることです。
モノの正確な形をとらえきれていないまま
細かく描き進めてしまっているとき、
細密に描くことにこだわりすぎているときは
全体のバランスをよく見れているか
要注意です。
描く時間よりも観察する時間を長くとり、
細かく見るのではなく
全体を見るようにしましょう。
ある一部分を描いているときでも
意識はその周りとの関係性を
常に気にしなくてはいけません。
先入観を取り払って
新鮮な視点でモチーフに向き合うこと、
モノ同士の関係性をよく観察すること、
この二つがポイントです。