画家ワシリー・カンディンスキー|「抽象画の先駆者」と呼ばれ、現代美術の礎を築いた生涯

こんにちは、画家の落合真由美です。
今回は「抽象画の先駆者」と呼ばれた画家
ワシリー・カンディンスキーのお話です。

抽象画と聞くと何が描いてあるのか分からず
に苦手意識を持っている方が結構いると
思います。
しかしカンディンスキーの生涯を知れば
抽象画をより身近に感じることができる
でしょう。
抽象画は誰でも気軽に鑑賞したり描いたり
自分らしく楽しめるものだと分かります。
カンディンスキーがどんな思いで抽象画を
生み出したのか、分かりやすく
解説していきます。

モネ「積み藁」との出会い

ワシリー・カンディンスキーは
1866年ロシアで生まれ、モスクワ大学で
法律や経済を学びました。
1896年、30歳の時のある衝撃的な出会いが
カンディンスキーが芸術の道を志すきっかけ
となります。
その出会いとはモスクワで開催された
フランス印象派展でのクロード・モネの作品
「積み藁」です。

フランスでは19世紀に写真が誕生して以来、
写実的な絵画論から視点を変えた印象派や
キュビズムなどの新しい芸術運動が
起こっていました。

印象派の光や色彩を重視した感覚的で
自由な表現はカンディンスキーにとって
見たことのない衝撃的なものでした。

この体験をきっかけにカンディンスキーは
具体的に何が描いてあるか分からなくても
人を感動させることができると考えます。
光や色彩、タッチによって画家の感情や内面
を表現できると確信し,
芸術の中心地・ドイツのミュンヘンへと
向かい、本格的に絵画を学び始めます。

印象派、後期印象派、象徴主義、
フォービズムから影響を受け、
初期は風景画を描いていました。

 

印象派

時間帯によって移り変わる光の印象の
瞬間の変化を柔らかく明るい色使いで
描写していくのが特徴で、
代表的な画家はモネやルノワールです。

風景画の名画 | モネ・ルノワール・ゴッホ・ゴーギャン・ルソーから学ぶ描き方や考え方

 

 

後期印象派

印象派の次の世代に活躍した画家たちのこと
で、光や色彩の明るい表現はしつつも
自己の感情や内面も表現しようとしました。
代表的な画家はセザンヌ、ゴーギャン、
ゴッホです。

ゴッホってどんな人?印象派や浮世絵から影響を受けたゴッホの人生や代表作を簡単解説します

 

 

象徴主義

©2025 Nasjonalmuseet for kunst

人間の目に見えない精神など形のないものを
神話のモチーフなど目に見える形に
置き換えて描くのが特徴です。
代表的な画家はルドン、クリムト、ムンク
です。

 

フォービズム

目に見える色ではなく心で感じた色で表現し、
原色を駆使した色使いと荒々しいタッチ
が特徴です。代表的な画家はマティスです。

 

どの流派も自由な色彩表現で自己の精神と
向き合っていてカンディンスキーの作品に
通じるところがあります。

カンディンスキーと青騎士

1910年頃からは次第に描くモチーフの具象性
を無くし抽象的に描くようになっていきます。

1911年カンディンスキーはフランツ・マルク
らとともにドイツで芸術家グループ
「青騎士団」を作ります。

青騎士とはカンディンスキーが1903年に
描いた作品タイトルが元になっている
という説があります。

当時の保守的な美術界に反逆し内面的な表現
を重視した表現主義を代表する芸術家集団
です。

青騎士団のメンバーはキュビズム、
フォービズムなどの思想に共鳴しながら
抽象的な表現を追求し、ドイツ表現主義の礎
を築きました。

1912年には
「抽象芸術論-芸術における精神的なもの」
を出版します。
芸術は物質的な次元を超え精神的な世界を
表現すべきであると主張し、視覚的な美しさ
だけでなく人間真理に迫る哲学論を
展開します。
カンディンスキーはこの著書の中で
自身の表現を3つに分類しました。

 

インプレッション(印象)
外面的なものの印象を表現したもの

 

インプロヴィゼーション(即興)
人の内面的な感情や記憶を表現したもの

 

コンポジション(作曲)
心の中で形作られた感情を表現した集大成

 

 

インプレッション作品の特徴

具象的に描かれていますが
何が描いてあるのかギリギリ分かる程度です。
フォービズムのような鮮やかな色彩と
躍動的なタッチで色や形を自由に
表現しています。

 

インプロヴィゼーション作品の特徴

具象画と抽象画の間のような位置付けで
色や形の表現がより自由になっています。
何が描いてあるのかよりも自己の中から
溢れ出てくる感情や音の表現を
重視しています。

 

コンポジション作品の特徴

具体的なモチーフを何も描かずに色と形だけ
で構成した音楽を奏でているような画面構成
です。作曲の様な自由さや緊張感がありつつ
も一つの音楽(作品)として
しっかりまとまっています。

 

カンディンスキーの抽象絵画論

カンディンスキーは幼い頃から
クラシック音楽が好きで色を音として
捉えられる共感覚を持っていました。

リズムを形として捉え、色も音楽と同じ様に
ハーモニーを奏でることができると
考えました。
主題をつけずにシンプルに色と形によって
作曲するような創作スタイルで
魅力的な作品を残しています。
カンディンスキーの作品を見ていると
実際に楽しげな音楽が聞こえてきそう
ですよね。

カンディンスキーにはどんな音が
聞こえていたのか、どんな感情で
描いていたのか鑑賞者それぞれが想像して
楽しむことができます。

カンディンスキーは
絵画と哲学の融合、絵画と音楽の融合
を実現し、色彩や形態で感情や思想、音楽を
表現するという独自のスタイルを確立し
現代美術に大きな影響を与えました。

晩年のカンディンスキー

1914年第一次世界大戦により青騎士団は
メンバーの戦死などにより崩壊します。
カンディンスキーはドイツを去り、
ロシアに帰国することになります。

1917年にロシア革命が起き、
次第に前衛芸術は軽視されるように
なってしまい、
1921年には再びドイツで活動を始めます。
1922年から1933年の間は
ドイツの国立総合造形学校バウハウスで
教鞭を取ります。
この頃は幾何形態を多用した作品を
残しています。

カンディンスキーはナチスの弾圧などの
苦難に遭いながら創作を続けましたが
退廃芸術呼ばわりされてしまい、
1933年にはパリに亡命しています。
この頃は有機的な形態と生物学的なモチーフ
の作風に変わりました。

激動の時代を生きながら自己と向き合い、
革新的な表現を探究したカンディンスキー。

1944年パリ近郊ヌイイで7逝去しました。
78歳でした。

まとめ

カンディンスキーの生涯について
解説してきました。
抽象画とは自己の内面を表現するものであり、
鑑賞者は作者が考えたことや
五感で体験したことを想像したり、
追体験したりすることができます。

何が描いてあるか明確に分からないからこそ
自由に想像する時間を楽しむことができ、
鑑賞する作品が自己を映す鏡であるかの
ように自分の精神と向き合うことができます。

気軽な気持ちで鑑賞してみたり
自分で抽象画を描いてみるのも
楽しいでしょう。

抽象画の描き方や鑑賞する時の楽しみ方|カンディンスキーやモンドリアンの代表作も解説