画家ウィリアム・ターナーの生涯とは?作品の特徴や印象派との関わりについて分かりやすく解説

こんにちは、画家の落合真由美です。

絵を描く時の醍醐味として
その場の空気感を表現すること
画家が出来る手法の一つです。

写真に撮るだけでは分からない
その場の体感温度や肌に触れる風や
空気の質、人が発する熱気や気配など
絵では感じた通りに自由に表現することが
できます。

絵は画家の目のフィルターを通した世界を
描くためどう感じてどう見るかも
画家次第ということですね。

その「空気感を描く」という行為は
抽象的で難しいと感じるかもしれません。

また雰囲気や空気感を重視して描いた作品
はモチーフが鮮明に描かれていない
こともあり
「何を描いているのか分からない」
と苦手意識を持つ方も多いでしょう。

今回は
吹雪・嵐・光・大気・水など
とらえどころのない自然空間の表情を
ドラマチックに描いた画家
「ウィリアム・ターナー」
のご紹介です。

ターナーの形のない自然の表情や空気感を
表現する視点や手法について
解説します。

ターナーの絵が
「難しい」と感じていた方も
鑑賞ポイントが分かりやすくなるかと
思います。

 

画家ウィリアム・ターナーと印象派

モネ「サンラザール駅」1877

 

 

日本では絵の表現といえば
モネルノワールなどの印象派
と呼ばれる画家たちが
根強い人気を誇っています。
モネの有名な「睡蓮」などの作品を
イメージできるでしょうか?

「印象派」とは

写真では表現することのできない
人間の目を通した空気感や雰囲気などの
印象を描こうとした芸術運動です。

印象派の画家たちは
細部の丁寧な描き込みは省いて
色や光の印象を表現しました。

「場の空気感や雰囲気などの印象を描く」
といっても抽象的で難しい
かもしれませんが
印象派の画家たちの作品は
何を描いているのかが
比較的分かりやすくイメージしやすい
かと思います。

ターナーは
この印象派の先駆けになった画家です。

印象派の画家モネに影響を与えた
とも言われています。

モネはターナーが見出した
「近代文明を描く」という
絵画の新しい思想に触発されて、
ターナーの作品にも登場する「鉄道」
描いています。

フランス印象派にも影響を与えた
ターナーがどんな画家なのか
この後詳しく解説していきます。

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画家ウィリアム・ターナー作品の特徴

ターナー「アオスタの谷:吹雪、雪崩、雷雨」

1836/37

 

 

18世紀のイギリスでは
世界で初めて産業革命が起こり
「大英帝国」として繁栄していきます。

その頃、美術の世界では
「ロマン主義」という
空想や自然の神秘など自由な表現
を目指す美術運動が起こります。

個性や感性から多様な美しさが生まれる
との考えのもと
ドラマチックな表現が好まれた時代です。

その時代に活躍し、
英国ロマン主義を代表する風景画家
となったのがウィリアム・ターナーです。

ターナーは自然のどんな表情を
描こうとしたのでしょうか?

ターナーは激変する自然の
目に見えないエネルギーを
ドラマチックに描くのが得意でした。

たとえば
吹雪、嵐、光、大気、水などの
自然の表情を大胆に描いています。

自然風景の姿形そのものを描くのではなく
光と色で自然の表情やエネルギーを
表現したのは当時は革新的なことでした。

輪郭をはっきり描かない画風
見るものにその場の状況を想像させる力が
あります。

またロマン主義運動が起こる以前は
絵画の題材といえば
聖書の内容や貴族たちでした。

ターナーは
産業革命のシンボルである蒸気機関車が
風雨のなか駆け抜ける様子を捉えたり、
深夜の火事現場のスケッチに熱中するなど
絵の題材において
時事的なエピソードを取り上げたことでも
斬新だったといえます。

またターナーの作品は
歳を重ねるにつれ
より抽象的な表現に変わっていきます。

ターナーは
印象派の後の表現主義
(感情や心の中の様子を
モチーフに反映させて描く美術運動)
にも影響をもたらし
19世紀イギリスのロマン主義を
代表する画家となりました。

 

画家ウィリアム・ターナー年表

ターナー「魚の交渉をするハックスターのいる漁船」

1837/38

 

 

【ウィリアム・ターナー年表】

 

1775年
ロンドンの下町
コヴェント・ガーデン生まれ

 

1789年
14歳
画家トマス・モールトンに師事して
水彩画を学ぶ

 

1799年
24歳
貴族たちが好む風景画を
的確な構図の水彩で描き
売れっ子画家になる

 

1800年
25歳
母が精神障害で入院

 

1802年
27歳
アカデミーの正会員になり
若くして富と名声を獲得する

フランスとスイスに初来訪、
スイスのアルプスの山並みで
激しい吹雪に遭い
自然の雄大さに深く感動する

 

1804年
29歳
母が死去する

 

1807年
32歳
ロイヤル・アカデミー美術学校の
透視図法の教授になる

 

30代から40代
欧州大陸へ頻繁にスケッチ旅行に赴く

 

1819年
44歳
イタリア訪問
イギリスの暗い空と比較にならない
明るい空の下、光の美しさに目覚めていく

晩年のターナーにとって
火、煙、水などの大自然の脅威が
テーマになる

吹雪や波浪を渦巻状に描く画風を確立する

 

1829年
54歳
最愛の父が84歳で亡くなる

 

1834年
59歳
深夜に炎上する国会議事堂を描いたが
「人物が小さくて分からない」
「真実が無視されている」
と批判される

 

1837年
62歳
アルプスの吹雪の谷を描くが
「何が描かれているのか分からない」
と批判される

 

1843年
68歳
ターナー擁護派の美術評論家ラスキンが
「近代画家論」にてターナーを賛美する

 

1844年
69歳
代表作となる
「雨、蒸気、速度
-グレート・ウェスタン鉄道」を製作

 

1851年
76歳逝去

 

画家ウィリアム・ターナー作品の魅力

ターナー「捕鯨者」1845

 

 

ターナー作品の魅力と言えば
やはり臨場感ですね。

ターナーは絵の具を大胆に
キャンバスにつけていく描法で
空気の動きを表現しています。
筆の先や柄の部分、指などを使って
絵の具を重ねることで
劇的な空間を表現しています。
当時にとってこのような筆づかいは
型破りな手法で非難の的になりましたが
こうすることで大きな空気の動きや
その場の臨場感が伝わってくる
迫力のある画面になっています。

絵は静止像に陥りがちですが
ターナーの作品からは
天気や空気の動きが感じ取れ、
見る者もその場で体験しているかのような
臨場感を味わえます。

 

まとめ

ターナー「ヴェネツィアへのアプローチ」1844

 

 

ウィリアム・ターナー作品の特徴について
解説してきました。

ターナーの作品は
絵の具の付け方を荒々しくしたり
絵の具をぼかして空気感を表したり
表現豊かな手法が様々です。

画家の視点や体感が
見る者にも伝わってきますよね。
絵を描くときや鑑賞するときの
参考にしてみてください。

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