油絵の具の「黒」の種類と上手な使い方を解説|「バロック美術」や「印象派」にとっての黒とは?

こんにちは、画家の落合真由美です。

今回は「油絵の具の黒」について
のお話しです。
油絵の具の黒には何種類かありますが、
油絵で黒さや暗さを表現したいときは
どんな黒を使っていますか?
それとも黒い絵の具はあまり使わない
でしょうか?

黒い色というのは強い存在感を放ち、
使い方次第で周りの色を引き立てることも
あれば、かき消してしまうこともあります。
描き進めていくとき黒をどのように
扱いますか?
何種類かある黒い絵の具を
どのように選びますか?

油絵の具の「黒」の扱い方や種類について
分かりやすく解説していきます。

油絵の具の黒の役割

黒といっても絵の雰囲気や作風によって
黒の使い方は様々です。
黒は固有色のを表現したり
モチーフの暗部や影を表現したりするのに
使います。
チューブから出したままのような
強さのある黒を使ったり、
補色を混色して自然で柔らかい黒を
表現したり黒の強さの度合いを変えることに
よって絵の雰囲気は様々に変わります。

黒は対比させる周りの色によって
見え方が変わってくるものです。
画面全体のバランスを見ながら
上手く取り入れていく必要があります。

あるいは黒を使わずに黒に近い暗色を使う
ことで暗部の表現をすることもあります。

黒を大胆に使う「バロック美術」

黒の使い方といえば、
17世紀のヨーロッパの画家たちは
背景に黒を大胆に使うことで
人々を惹きつけました。
「バロック美術」と呼ばれる美術様式です。

バロック美術とは「ゆがんだ真珠」を
意味します。
「ゆがんだ真珠」の真珠とはルネサンス時代
のことで
ルネサンス美術の
「理想的で均衡の取れた画面構成」を
意図的に崩す様な美術様式の動きが
バロック美術です。

この頃は宗教改革が起き、
信者奪還のためよりダイナミックで
ドラマチックな表現によって
人々を惹きつけようとします。

バロック美術は
背景を思い切り暗くするのに対して
モチーフやモデルには明るく光を照らし、
光と影のコントラストを強く描きました。
登場人物に視線を誘導し対象を引き立たせる
ためです。
誇張された動き、劇的な演出、緊張感
によってテーマの壮大さや人物の偉大さが
強調されます。
こうしてバロック時代の作品の背景部分には
強さのある黒が重宝して使われました。

この様に意図的に強い黒を使うと
登場人物やモチーフを引き立たせることが
できます。

しかし意図せず強い黒を使うと
周りの色の存在感を消してしまったり
画面が暗く濁って見えたりすることが
あります。
そのくらい「黒」の存在感は強く、
意図を持って使用することが必要です。

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黒を使わない「印象派」

バロック美術では黒い背景が重要な役割を
果たしましたが、美術史ではその黒を
排除したがる芸術運動も後に起こります。
「印象派」と呼ばれるグループです。

1860年代に起こった「印象派」と呼ばれる
芸術運動で、モネやルノワールなどの
印象派の画家たちは描く対象の周りの光や
空気感を捉えようと「黒」を使うことを
避けました。

自然光の明るい表情を捉えようとする彼ら
にとって黒やグレーは排除したい色だった
からです。
印象派たちの作品は明度の高い色によって
描かれ、
絵の具は混色せず、様々な色を
隣り合わせる様に配列して形態や明暗が
表現されています。
こうすることで明るく澄んだ色のトーンを
キープしながら明暗や形態を表現することが
できるのです。

自然界には存在しない黒を使わないことで
自然風景や日常風景を描いた印象派たちの
作品は明るく澄んだ雰囲気を纏っています。

現代でも黒い絵の具はあまり使わない方も
いたり、使ったとしても自ら混色して黒を
作るなど、画面が濁りやすい黒はあまり
多用しないことがほとんどです。

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黒の適切な使い方とは?

バロック美術の様な劇的な表現を
望まずとも、表現や描くモチーフによっては
黒やグレーが必要な場面も出てくるでしょう。

印象派は黒の使用を避けていましたが、
1870年代に入ると
ルノワールは黒を使わない印象派の技法に
限界を感じることがありました。
光を捉えようとすればするほど
画面がぼやけ人物の存在感が薄れていく
ように感じていたからです。
そこで、
人物の輪郭線を明確に描くこと、
印象派が避けていた色である黒を部分的に
取り入れることを実践していきました。
そういった作風の転換期の中で完成した作品
がルノワールの代表作でもある
「舟遊びをする人たちの昼食」です。

黒を画面を濁す異物として排除するのでは
なく必要な箇所で適切に使っていくことも
手法の一つです。
モチーフの立体感や空間の奥行きを表現する
時の陰影の表現として強い黒ではなく
色幅を効かせたナチュラルな黒(グレー)を
使うことでモチーフを自然な佇まいで
立体的に表現することができます。

黒い絵の具のチューブから出したそのままの
黒を使うとたいてい画面に馴染まず強すぎて
しまい、絵が澱んで見えてしまいます。

黒の強さを弱めて自然に見せていくことが
必要です。
様々な画家の作品を見ていると
一見すると黒でもよく見ると
濃い紫、濃い茶色、濃い青、濃い緑などで
黒が表現されています。


様々な色を混色して黒に近いところまで
明度を落として黒っぽく見せているのです。

また、黒はチューブの黒絵の具を使わずとも
補色を混色して生み出すことができます。


補色とは色相環において正反対に位置する色
の組み合わせのことです。
補色同士が混ざるとお互いの色を打ち消し
あって無彩色(黒、グレー)になります。
そこに自分らしい色を加減して作品に
馴染む黒っぽい色を生み出しても
良いでしょう。

モチーフの形態を引き締めたり
空間で一番暗い部分を表現するときには
強い黒はほんの部分的な使用にとどめておく
と画面全体のバランスを保ちやすくなります。

また黒さの表現は色の配置によって相対的に
黒く見せると、全体感を壊さずに
描き進められます。


黒く見せたい部分にはある程度の暗色を施し、
隣り合う色を明るくすることで
純粋な黒を使わなくても黒っぽくみせること
ができます。

また黒の上に透明色でグレーズ(透明な
絵の具を溶き油で薄めて薄く重ね塗りする
こと)すると深みのある色に変化し
画面に複雑な発色をもたらします。

この様に黒の表現をしたいときは混色して
黒っぽい色を作ったり、
色の配置を工夫したり、グレーズしたり
黒の強さを弱めて使うこと
自然な佇まいの描写に繋がります。

黒は混色して作るもよし、
黒い絵の具に混色をして使うもよし、
黒の役割を踏まえて自分らしく黒を
使ってみてください。

油絵の具の「黒」種類別の特徴

販売されている様々な黒の絵の具の違いに
ついても解説します。
それぞれの黒の違いは一見すると
分かりにくいですが、
白を混ぜるとより発色や色味の違いが
分かりやすくなります。

絵の具には顔料が使われています。
顔料とは絵の具の色を作るもとになる
粉末状の着色剤のことです。
顔料が違うことによって色味や乾燥の早さ、
着色力に差が出てきます。

動物系の顔料は暖かみのある黒をつくり、
植物系の顔料は冷たい雰囲気の黒を
つくります。

 

アイボリーブラック

動物の骨を炭化したものを顔料としていて
赤みがある黒です。
昔は象牙(アイボリー)を使って作っていた
ためアイボリーブラックと呼ばれています。
現在では一般的に牛骨が使用されています。
他の黒と比べるとやや透明感があります。
適度な発色で初心者でも使いやすいです。
湿度の高い環境ではカビの発生に注意が必要
です。

 

ピーチブラック

昔は桃の種を焼いて作っていたため
ピーチブラックと呼ばれています。
現在では縮合アニリン系の顔料で
作られています。
赤みと青みの中間的な色調で発色が強めです。
最も漆黒で一番黒っぽく見える黒なので、
意図を持って使用することが必要です。

 

ランプブラック

昔はランプの油が燃焼したときにできる煤を
顔料としていたためランプブラックと
呼ばれています。
現在は化学合成により作られています。
マットな質感でやや青みがかっている墨
のような色味を出します。
マットな質感のため部分的にランプブラック
を使うなら作品全体の艶のバランスに注意が
必要です。

 

マースブラック

酸化させたで作られています。
鉄を高音で焼いて黒の色を出しています。
マースは火星のことで
火星の表面は酸化鉄で覆われていることから
マースブラックと呼ばれています。
透明感のある黒で
ニュアンスのある黒の表現ができます。
他の色と混色して明度を落としたい時などに
使えます。

 

ブルーブラック

ウルトラマリンの顔料を含む黒と青の中間的
な色です。青系の顔料を使っているので
白を混色すると青みが強く出ます。

 

まとめ

油絵での黒の役割や使い方、
黒の種類について解説してきました。

黒さを表現するときには絵の具の黒に
頼りすぎないことが大事です。
混色したり、絵の具の配置を工夫したり
しながら自分らしい黒さの表現をしましょう。

黒は後回しにされがちな色ですが、
質感や発色の違いを理解し自分らしい黒の
表現、暗部の表現にこだわってみることで
作品も豊かになるかもしれません。

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