こんにちは、画家の落合真由美です。
今回はデッサンについてのお話ですが
デッサンにおいて不可欠な
「モノを観察して正確に描写する」
という行為はよっぽど訓練を積んでも
主観的になりがちですし偏見を持ちやすい
ところがあります。
常に客観性を欠くことなく
正確にデッサンするのは大変なことです。
今回は難しく考えがちなデッサンにおいて
少しでも気を楽にして取り組むために
役立つ考え方の一つとして
「ネガとポジ」についてお話していきます。
ネガとポジという言葉は
聞いたことがあるかと思いますが
ネガとはネガティブスペースのことで
モチーフの周りの余白の空間のこと
を指します。
ポジとはポジティブスペースのことで
モチーフそのもののシルエットのことを
指します。
いつもと違った視点でモチーフを観察して
楽に正確にモチーフを捉えていこう
という考え方の一つとしてこの
「ネガとポジ」の視点でモチーフを
観察していく方法をご紹介します。
目次
ルビンの壺をデッサンに応用する
デッサンをするときは
モチーフに対して背景があり、
モチーフが主役で背景が脇役であるという
認識があると思います。
しかし今回の考え方は
モチーフと背景を主役・脇役の区別をせずに
対等に捉えていこうというものです。
通常の考え方だと
モチーフがポジ、背景がネガにあたりますが
モチーフをポジ、背景をネガと
捉える瞬間もあれば
背景をポジ、モチーフをネガと
捉える瞬間も意識的に作っていきます。
状況を反転させて観察することで
見方が新鮮かつ正確になり
説得力のある画面を目指すことができます。
デッサンとは画面全体をモチーフが存在する
奥行きのある空間としてみせることが
目的です。
このネガポジの考え方でデッサンを進めると
通常希薄になりがちな
背景や余白へ意識を向けることができます。
誰しも一度は目にしたことのあるだまし絵
「ルビンの壺」を思い浮かべてみてください。
ルビンの壺とは
デンマークの心理学者エドガー・ルビンが
考案した多義図形のことで
背景に黒地を使った白地の図形で
「向き合った二人の顔」にも「壺」にも
みえるというだまし絵です。
壺としてみている瞬間は
壺がポジで背景がネガにあたります。
二人の横顔としてみている瞬間は
状況が反転し壺だったスペースは
背景であるネガに変わりますね。
容易に反転できるのは
双方のシルエットが
ともに意味があるからです。
この「ルビンの壺」の見方を
デッサンにも応用していきます。
背景はどんなシルエットをしているのか
注意深く観察してみましょう。
背景のシルエットを正確に描くことで
必然的にモチーフのシルエットを
正確に描いていることになります。
背景の形に意味を見出せば
自然とモチーフの形にも
存在感が出てくるのです。
このような観察の仕方は
複雑な形のモチーフを描くとき、
モチーフの数が多いときに
特に有効に働きます。
ネガとポジを意識し続けて描き進めることで
安定感のあるデッサンになっていきます。
デッサンでの調子の付け方
デッサンで陰影の調子をつける時にも
ネガポジを意識するのが有効です。
調子をつけている部分は
モチーフの形態を引き立たせるための
背景(ネガ)としての調子なのか、
それともモチーフそのものの
ポジとしての調子なのか
何を表そうと描き進めるのかを
明確にしましょう。
今調子をつけているのは
ポジなのかネガなのか、
何に対してポジなのか、
何がネガにあたるのか
相対するものの関係を明確にしながら
描き進めることで
手数に無駄がなくなっていきます。
ネガポジの関係を明確にしないと
空間とモチーフの状況設定が曖昧になり
物の前後関係や配置、距離感などに
破綻が起き全体がまとまらないデッサン
になりがちです。
せっかく調子をつけて
形を描き起こしていっても
細かく描き込んだ部分が浮いてしまったり
全体感が整わないデッサンに
なってしまいます。
細密デッサンをする場合はなおさらです。
どこをネガにしてどこをポジとして
見ていくか明確に意識していくことは
細密に描き進めるにあたっての土台
になります。
細部を描き込む際も
細部の何をポジにすれば
何がネガとして成立するか
永遠と粘り強く描き終えるまで
意識していきましょう。
「ネガポジ」でデッサンは上達する
ネガポジを意識した見方をすることによって
今までのデッサンにたくさんの良い変化が
起きてきます。
描きづらい環境でも上手く描ける
デッサンは光を劇的に当てて
明暗の差を大きく設定したほうが
描きやすいのですが
描く対象にたとえ明暗の差が少なくても
ネガポジを意識することで
モチーフに存在感が出てきたり
画面全体に空間感も出てきます。
描きづらい状況設定でも
上手く描くことができるようになります。
偏見をなくして観察できる
ネガポジの考え方は
私たちの偏った見方、主観的な見方を
訂正してくれます。
普段、モノを名前で呼んでいる私たちは
無意識にモノの形に対して
固定観念を持ってモチーフを観察しています。
この固定観念によって実際に見ている形が
どんな形をしているのか気づきにくい状態に
なっています。
普段見慣れた見方を反転させて観察する
ネガポジの考え方は
私たちの固定観念を崩してくれる
有効な考え方のひとつです。
形(シルエット)が正確に描ける
ネガとポジを場面によって反転させて
観察するようにすると
特に形を正確に描くことにおいては
新鮮な見方でモチーフに臨むことが
できるので正確性がアップします。
背景が奥行きのある空間になる
背景に意味を見出すことで
余白に緊張感が出てきます。
余白がただの画用紙の白として見えるのか、
それとも奥行きのある空間として見えるのか
この違いはデッサンの出来に
大きく影響します。
背景に意識を向けることで
モチーフの観察の仕方と描き方に
変化が起こりそれによって
何も手を付けていない白い画用紙の背景でも
空間として見えてくるので不思議です。
バランスの良い構図が取れる
デッサンを含め絵は背景も踏まえた全体図が
作品のすべてです。
ネガポジの意識によっておのずと
構図のセンスアップにつながります。
余白を多めにとった作品でも
成立しているのは
余白に意味を見出していて
しっかり空間になっているからです。
背景はほとんど手を加えていなかったり
無地だったりするのに
背景に緊張感のある魅力的な作品が
たくさん存在します。
描くスピードが速くなる
特に調子をつけている瞬間は
何も考えずに何となく調子をつけていること
が多いものです。
ネガポジ相互の関係を意識することで
置かれた線や調子がモチーフの何を
描いているのかという認識が
はっきりしてきます。
手数の効率が良くなってくることで
描くスピードが速くなることにも
つながります。
前後関係を上手く描ける
モチーフが微妙に重なっているときや
画面に登場するモチーフの数が多い時は
特にそれぞれの配置の状況を
正確に伝えるのに
ネガポジの考え方が役に立ちます。
総合的なデッサン力がつく
デッサンとは見えるもの自体を
個別に一つ一つ描いていくのではなく
画面全体の中でそのモチーフが
どのくらいの大きさで
どのような配置になっているのか
ひたすら相互関係を比べていく行為です。
ネガポジの考え方によって
関係性を追求した見方ができるように
なります。
これはデッサンにおいて最も難しく
最も大事な見方です。
この見方を習慣づけることで
デッサン力はかなり向上するでしょう。
全体感を掴むことができる
描いていくと見方が細かく部分的になるのは
否めないことです。
全体のバランスをまとめる力は
いきなりつくものではありませんが
ネガポジの見方によって
自然と全体を見渡す力がついていきます。
この全体を見渡してまとめる力は
なかなか自分で意識してできることでは
ないので大切ですね。
まとめ
ネガとポジのように相対的な見方をして
関係性を掴むことはデッサンにおいては
最も難しく最も集中力のいることで
最も重要なことです。
そして観察行為に新鮮味も
もたらしてくれるのでデッサンの楽しさも
再認識させてくれます。
いつもと違うアプローチで描いたら
描く時間も楽しくあっという間に
過ぎるかもしれませんよ。
デッサンがマンネリになったり
スランプになってしまったら
今回のような見方で描いてみるのも
おすすめです。