デッサンをやる意味とは何か?デッサンの上達で得られることとデッサンの怖い落とし穴

こんにちは、画家の落合真由美です。

今回は「デッサン」について
お話していきます。
デッサンとは鉛筆や木炭を使って
写実的に描いていく絵のことですね。
絵を描く人にとってデッサンは
避けて通れない道です。
美大受験には必ずデッサンの実技試験があり
大変レベルの高いデッサン力が要求されます。
そのため美大受験生はデッサン力強化に
とても苦労しています。

満足なデッサン力をつけるためには
何年もかかるものであり
モチベーションをキープし続けるのも
容易ではありません。

デッサンとは何なのか、
絵を描く者にとって
デッサンは本当に必要なのか、
取り組むことで何が得られるのか、
デッサンへの向き合い方について
解説していきます。

デッサンとは何か

デッサンとは
モチーフを写実的に捉えていく絵のこと
ですが
具体的にはどんなことをするのでしょうか?

デッサンでは主に5つのことをします。

 

1.形を捉える

形を正確に捉えるには
細かい部分にとらわれずに
モチーフ全体のシルエットを
大まかに捉えることと
形の大きな特徴を捉えることが大事です。
正確な輪郭線が描けていないのに
細かく描き込んでいっても
せっかく描いた物が無駄になってしまいます。

正確な形を描くためには
アタリをとって徐々に形を決めていくことが
大事です。

どういうことかというと
形が大きく変わる特徴的な部分に
点を置きます。
全体を見ながらそれぞれの点同士の距離感や
位置をよく見て配置を決めます。
配置した点と点をつなげたものが
輪郭線を描くためのガイドのような役割
を果たしてくれます。
徐々に見方を細かくしていき
点の配置、ガイド線の描き足し
を繰り返すことで
正確な形が描き起こされていくものです。

形はある一部分からいきなり描き始めると
必ずズレが起き
後から形を描きなおして全体感を整えるのに
大変苦労します。
アタリをとることは
デッサンの骨組みにあたる重要な部分
ですので描き急がずに
この段階を丁寧に取り組めるかどうかが
デッサンの出来に大きく関わってきます。

 

2.光と影の明暗を描き分ける

モチーフをリアルに描いていくのに
欠かせないことは
光と影を丁寧に見ていくことです。
光が当たっている部分と
影が落ちている部分を描くことで
モノが立体的に見えてくるのです。
光が当たっている部分は白っぽく、
影が落ちている部分は黒っぽく
描いていきますが、
白と黒の間のグレーの色調
幅広く描き分けられると
よりリアルな作品になっていきます。

このグレーの色幅を描き分けるために
鉛筆や木炭の濃さの種類を使い分けたり
筆圧を変えたりして調整していくのです。
ここでも大事なのは
全体のバランスを見ながら
白、グレー、黒の配置を
大きくつかんでいくことです。

目を細めてモチーフ全体を見てみて、
一番明るいエリアはどこか?
一番暗いエリアはどこか?
最初は大きくつかんで
徐々に見方を細分化していくようにします。

常に全体のバランスを見て
一番暗いところは?
二番目に暗いところは?
三番目に暗いところは?
というふうに
全体の辻褄を合わせていくことです。

 

3.空間の奥行きを描く

モノをリアルに描くには
配置しているモチーフの距離感を描き分けて
奥行きも表現していきます。
ここでも複数あるモチーフのうち
ある一つのモチーフばかり描き進めると
モチーフ同士の大きさや距離感の関係性に
ズレが生じてきます。
複数のモチーフを
同時進行で描き進めていくことで
大きさや距離感の辻褄を合わせながら
描くことができるので
ズレが生じにくく
自然な奥行きのある作品になります。

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4.質感や量感を表現する

リアルな絵に欠かせない表現として
質感や量感の表現も大切です。
モチーフの手触りや重さが
画面から伝わるように描き分けていきます。

軽いものや柔らかいもの、
ざらざらした質感のものなどは
柔らかい鉛筆や木炭を使って
軽い力で描いたりぼかしたりしながら
描きます。

重いものや硬いもの、つるっとしたものは
硬い鉛筆や木炭を使って
細かく密度を高めて描き込んでいきます。

またモチーフの質感によって
光の当たり方やハイライトの入り方が違う
のでここも描き分けポイントです。

 

5.色幅を表現する

色の明度をモノトーンで表現していきます。
明度とは色の持つ明るさや暗さの度合い
のことです。

光と影の明暗を描き分ける様に
色の明度を表現するときでも
白と黒の間のグレーの色幅
豊かに描き分ける必要があります。

色の見え方は相対的なものなので
周りのモチーフの色や背景の色と比べて
どんな位置づけになるのか
常に比べて色を付けていく必要があります。

ここでも目を細めて全体感を確認したり、
分かりづらい場合は
暗記の時に使う半透明の赤いシート越しに
モチーフを見ると
固有色が打ち消され
明度の段階の違いが見えやすくなります。

そのため
モチーフの背景設定と画面の背景設定を
同じようにするのが
色をつけやすくするポイントです。

色がついている背景と真っ白な背景とでは
モチーフの色の見え方が違ってくるからです。
実際にモチーフの背景は色がついているのに
画面は色を付けず画用紙の白背景のままで
モチーフを描くのは
デッサンを難しくしてしまいます。

 

デッサンではこのように5つの点から
アプローチし
モチーフを写実的に描いていきます。

この5つをバランスよくこなすのは
とても難しいですよね。
でもこれができるようになると
どんなことが得られるのでしょうか?

私の経験も交えてこのあと解説していきます。

 

デッサンをやる意味

デッサンの上達は数か月から数年にわたり
長期的に取り組んでいくものであり
取り組んだ経験は必ず実になるものです。
取り組んだ分だけ描く力が鍛えられます。
上達するまではつらく苦しいことも
ありますが取り組む価値は十分にあります。

デッサンが満足にできれば
あらゆる画材で描く場合に
応用が利くからです。

デッサンに取り組むことで
どんな力がつくのでしょうか?

デッサンによってつく力
次の6つのことと考えます。

 

1.構成力

これまで解説してきたように
デッサンとは常に全体のバランスを
俯瞰的に見て
モノ同士の関係性を比較していく力
が必要なので
構成力が自然と身に付いていきます。
この力は絵を描くにあたって
骨組みにあたる重要な部分です。

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2.観察力

形を正確に捉えたり、
光と影の明暗を描き分けたり、
色幅を描き分けたり、質感を描き分けたり
するにはモチーフの特徴を
よく観察しないと見えてきません。
長期的に取り組むことで
確実に観察眼が鍛えられます。

 

3.描写力

観察した特徴を描き表していく力です。
画材の硬さを変えたり、
筆圧や画用紙への当て方を変えたり、
密度のある描き込みをする部分と
粗く描く部分との差別化をしたり
描き方の工夫を凝らしていくことで
鍛えられていきます。

 

4.表現力

デッサンはただ機械的に観察したものを
描き写すだけのものではありません。
観察して感動したものをどう魅せていくか、
主役をどう描き込んで魅力的に見せていくか、
自分の視点を他者に示していく場
でもあります。
魅力的なデッサンが出来たら
それだけ他者を感動させられる表現力
も付いたと言えます。

 

5.忍耐力

デッサンは正確にモチーフを
捉えられていないと如実に画面に表れます。
上手くいってないと
モチーフと印象が明らかにかけ離れてしまう
のでそうなってくると描くのが
辛くなってきます。
デッサンを始めて数か月は
このようなことの連続です。
またある程度上達しても
上手くいっている時と
上手くいっていない時の
波を繰り返しながら
一枚のデッサンを仕上げるものなので
デッサンに忍耐力はつきものですね。

 

6.集中力

一枚のデッサンを仕上げるには
大きさにもよりますが
6時間から18時間くらいかけます。
その中で時間配分をしながら
良い時と悪い時の波を繰り返して
観察をし続け仕上げていきます。
終始集中しながらの自分との戦いです。

 

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デッサンによって得られる力は
大変価値のあるものです。
デッサンで身につけた力は
絵以外の分野でも応用できるでしょう。
日頃仕事をしたり生きていく中で、
全体感を俯瞰する力物事を観察する力
工夫を凝らして他者へ表現する力
忍耐力集中力は必ず役に立ちます。

 

デッサンが上達するきっかけ

これまでの解説だとデッサンの上達は
途方もない道のりのように思えますが
そんなことはありません。
上手くいくきっかけがあれば
そこからデッサンが面白くなっていき
どんどん上達していくものです。
たまたま自分が描きやすいモチーフに
あたって上手くいったり
画材の扱いに慣れてきて
上手くいく法則が自分の中で
何となく掴めてきたり
枚数を重ねる中で
必ずきっかけに出会うことができます。

私の経験をお話ししますが
私の場合、上達するきっかけとなったのは
画材に慣れてきてモチーフを
それらしく見せられる描き方を
掴めたことです。

私はモチーフの存在を示す輪郭線の
キワの処理をシャープにしたり
柔らかく回り込むようにしたり
丁寧に決めるようにしました。

また、光と影の明暗の表情を
豊かに表現するために
白と黒のコントラストを
強調して描いてみました。

白と黒の間の色調である
グレー(ハーフトーン)をキレイに見せること
にこだわってぼかし効果を使ったりして
グレーを繊細に見せるデッサンを
心掛けました。

そして枚数を重ねるごとに
細かい部分の描写が面白く感じていったので
限界までとことん描き込むことに
こだわったり
質感をキレイに表現するのが
得意になってきたり
自分らしいデッサンが
見えてくるようになりました。

描き方が先行してしまって
観察がおろそかになると
もちろんデッサンは上手くいかなくなる
のですが
自分らしい描き方に出会ったことは
デッサンを面白く感じたり
上達する大事なきっかけになりました。

デッサンがもたらす失敗例

デッサンによって得ることが多いのは
間違いないですが
それだけに取りつかれてしまうと
本来の自分らしさを見失ってしまい
スランプに陥ってしまうことがあります。

デッサンに取り組むのがつらい時や
どうしたらいいか分からなくなった時は
少し考え方を転換してみる必要があります。

デッサンに固執しすぎることで
楽しい気持ちや自由さ、
躍動的な表現が抑え込まれてしまうことが
あるからです。

描くのが楽しくないと絵に必ず現れます。

上達を目指す中でも
楽しく自分らしく描いていくためには
しっかり制作計画を立てて
調子よく楽しく進むようにしたり、
デッサンが辛いなら
色を使う画材を使った制作に切り替えて
デッサンの堅苦しいルールから
少し離れてみても良いかもしれません。

私がデッサンで上手くいっていなかった時や
スランプに陥っていた時は
しっかり制作計画を立てず
闇雲に進めていたことが原因でした。

無計画でいきなり細かく描き進めると
必ず形が狂い絵がどんどん破綻していき
やる気がなくなっていきます。

これからお話しするのも私の失敗談です。

輪郭線は見やすく描きやすいものなので
つい強調しすぎて描いてしまって
立体感や重量感のない薄っぺらい絵
になってしまいました。
繊細な表現を目指して
制作の時間配分を計画せずに
ゆっくり描いていたら
制限時間内に手数が足りなくなり
弱々しい印象の絵になっていました。
描き方のコツを掴んだからといって
その技法だけに頼って描こうとし
観察するという基本がおろそかになり
不自然な絵になってしまいました。

これらは全て私が今まで経験した失敗談です。

制作計画をしっかり立てるということも
大事なのだと思います。

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まとめ

今回はデッサンとは何なのか、
その価値について解説してきました。

上達の過程では
様々なフィードバックを受けることに
なりますが
ただ他人に言われるがままにやっても
自分が納得していなかったり
楽しくなかったりすると
絵は良くなっていきません。

自分を苦しめすぎないように
自分らしく計画を立てながら
取り組んでいきましょう。

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